2005/07/03 無人機編
夕暮れとともに降り出した篠突く雨。
駐車場を小走りに店へ入る。
挨拶もされず、迎えられない気持ちのままに俺はカウンターに座す。
メニューは壁掛けの板のみで、それを眺めていると水の入った容器が中空を横切り目の前にコトリと着地する。
着地を確認してから男と目を合わす。瞬きなしで数秒の静止。永遠とも呼べる刹那。
少し瞳を泳がせたのち、男は奥の厨房へ向かって歩いて行く。
隅のコミックコーナーでは、何も喰わずにその一角を陣取るリーゼント猪八戒が俺に一瞥くれる。人間が珍しいのだろうか。眼前に蛇を差し出せばラードが抽出できそうな体躯。お前がいると窓が曇る。
しかし、客は3組ほど入っているというのになぜこれほど暗く澱んだ空気なのだ。まるで通夜だ。
しばらくじっと待っていたが、オーダーを取りに来る気配がないので店の流儀に合わせて黙して外へ出た。
めっぽう気の弱い俺は、厨房に引っ込んだ男を呼び出すために、人前で大きな声を出すなんてとてもできない。
店を出て、後ろ手で戸を閉めるとなにかが後ろから聞こえた気がする。
その言葉に興味はない。
はっきりしたのは、男は唖じゃなかったらしいということ。
書けばこれだけのことだが、たったこれだけのことをまともにやれない店側に欠陥があることを諸君も悟るべきだろう。